リゾチーム塩酸塩製剤と卵白アレルギー

リゾチーム塩酸塩製剤と卵白アレルギー

2013.04.12

Question:固ゆで卵では問題なく、生卵・半熟卵でアレルギーの患者に、ノイチームなどのリゾチーム塩酸塩製剤は投与できるか?

Answer:「熱処理した卵にはアレルギーを起こさない」卵アレルギー患者であっても、リゾチーム塩酸塩製剤は投与できない。

そもそも、医薬品添付文書上、ノイチームはいかなる形であれ「卵白アレルギーのある患者」には投与禁忌である。

ノイチーム錠の医薬品添付文書の禁忌欄を以下に記す。
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【禁忌】
1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2. 卵白アレルギーのある患者
〔本剤の成分は卵白由来の蛋白質で、卵白アレルギーを有する患者においてアナフィラキシー・ショックを含む過敏症状の報告がある。〕
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ノイチームの製造企業に問い合わせたところ、リゾチーム塩酸塩製剤は製造過程で加熱処理は行っていないとのことであった。(加熱による滅菌処理を行っていないため、シロップ剤は防腐剤を添加した高張溶液として製造されている。)

<製造過程で熱処理しない理由>
リゾチームはムラミダーゼまたはムコペプチドヒドロラーゼとも呼ばれ、細菌細胞壁のペプチドグリカン層等に存在する N-アセチルムラミン酸と N-アセチルグルコサミンの間の β-1,4 結合を加水分解する酵素である。リゾチームは、その酵素作用により細菌の細胞壁を切断し、細菌を溶菌する活性を有する。リゾチームは溶菌作用、止血作用、白血球の食菌能増強作用をもつ酵素である。リゾチームの熱安定性は pH に依存し、酸性条件下では熱に安定であるが pH の上昇に伴い不安定になることが知られている(注)。製造過程では、リゾチームの活性低下をできる限り避けるために加熱処理は行われていない。

注)リゾチーム塩酸塩の安定性:インタビューフォームより
リゾチーム塩酸塩の水溶液は酸性では熱に安定であるが、pH の上昇に伴い不安定となる。pH 3.0では100℃・45分の加熱でも失活しないが、pH 7.0となると80℃・30分で失活し、100℃では10分で失活する。

●リゾチームと卵アレルギー
リゾチームは卵白タンパク質中に 3.4-3.5% 含まれる塩基性タンパク質であり、一部が卵白中でオボムチン、オボアルブミン、オボトランスフェリンと結合していることが知られている。

リゾチームは卵アレルギーのアレルゲンのひとつであることが知られている。アレルゲン性は、概ね各タンパク質の安定性(熱、酵素など)に依存する。これは、アレルゲン性は特異的な免疫反応を起こす活性が保たれているか(すなわち B 細胞や T 細胞のエピトープが保たれているか)で決まってくるためである。前述のように、リゾチームの安定性(酵素活性の安定性)は pH と温度に依存することが知られている(pH 3.5-5.0で最も安定)。

卵中に含まれるアレルゲンは単一ではなく、熱安定性もさまざまである[文献 1]。今回の事例のように、熱処理した卵ではアレルギーを起こさない卵アレルギー患者は、熱処理によって低アレルゲン化する物質がアレルギーの原因物質になっていると考えられる。実際、鶏卵は 90 度で 10 分間熱処理すると、アレルゲン性は >50% 低下することが報告されている。しかし、リゾチームのアレルゲン性が熱変性により完全に消失するとは言い切れないので注意が必要である。

●卵白中の成分に対するアレルギー
卵白には多種類のタンパク質が含まれている[文献 2]。このうち、オボムコイド、オボアルブミン、オボトランスフェリンが主要アレルゲンとされており、リゾチームもアレルゲン活性を持っているが、前者に比べると弱いと言われている。また、オボアルブミンは加熱によりアレルゲン性が減弱するが、オボムコイドは加熱してもアレルゲン性は減弱しにくい。オボムコイドに過敏性がある場合は、100℃では不十分であり180℃のオーブンでしっかり焼く等すると抗原性が低下するといわれる。

国内外で様々な報告がなされているが、日本人のアレルゲンとなっているのは、多い方から順に、オボムコイド>オボアルブミン>オボトランスフェリン>リゾチームであったとの報告がある[文献 3]。

<引用文献>
1. Mine Y and Yang M., J Agric Food Chem., 56(13):4874-900 (2008).
2. 中村良編,シリーズ食の科学「卵の科学」朝倉書店,1998
3. Urisu A, et.al. J Allergy Clin Immunol100(2):171-6(1997)

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