多汗症に対するロートエキス散の処方

多汗症に対するロートエキス散の処方

2016.03.11

皮膚科クリニック
<症例>:19歳女性
  緊張すると、手のひらから大量の汗が出て、困っており、受診。
1週間後に就職の面接をひかえている。

 <処方>:ロートエキス散 0.5g 頓服 汗が気になるとき 5回分 
     塩化アルミニウム 10g、エタノール50mL 混合 外用 1日1回

 ●多汗症は、全身の発汗が増加する全身性多汗症と、体の一部に限局して発汗量が増加する局所性多汗症に分類される。

全身性多汗症には、特に原因のない原発性と、感染症・内分泌代謝異常や神経疾患に合併する続発性がある。

局所多汗症にも原発性と、外傷や腫瘍などの神経障害による続発性局所性多汗症がある。

頭部・顔面、手掌、足底、腋窩に、温熱や精神的負担の有無に関わらず、日常生活に支障をきたすほどの大量の発汗を生じる状態を、原発性局所多汗症と定義している。

平成21年度に特発性局所多汗症研究班がまとめた全国疫学調査において、本邦の原発性局所多汗症の有病率と発症年齢は、手掌で5.33%・13.8歳、足底で2.79%・15.9歳、腋窩で5.75%・19.5歳、頭部で4.7%・21.2歳である。そのうち医療機関への受診率は6.3%と低い。

局所的に過剰な発汗が明らかな原因のないまま6ヶ月以上認められ、以下の6項目のうち2項目以上を満たす場合を多汗症と診断する。
①最初に症状がでるのが25歳以下 ②対称性に発汗がみられる ③睡眠中は発汗が止まっている ④1週間に1回以上発汗のエピソードがある ⑤家族歴がある ⑥日常生活に支障をきたす

治療について、「原発性局所多汗症診療ガイドライン」においては、塩化アルミニウムの単純/ODT(密封)外用は、まずすべての部位に第一選択にすることが推奨される。塩化アルミニウム六水和物を無水アルコールに溶解して10%~30%の溶液とした物が広く用いられるが、保険適応のある外用薬はないため、院内製剤として一般的に処方されている。通常は1日1回寝る前に外用し、効果発現まで2~3週間かかる。

皮膚に存在するムコ多糖類と金属イオンが合成した沈殿物が、上皮管腔細胞に障害を与え、表皮内汗管が閉塞する、という機序で発汗の減量が起こる。汗の分泌細胞自体は障害を受けないが、表皮内汗管がダメージを受け続けることにより分泌機能を失うため、継続した外用が望ましい。

腋窩については単純外用で有効である。手掌においては、重症度に応じて、中等症から重症例についてはODTを行う。副作用として、刺激性皮膚炎があるが、外用の休止や保湿薬・ステロイド外用で対応可能である。

イオントフォレーシスは、手掌、足底には塩化アルミニウム外用療法と並んで有効な治療法である。手掌、足底を水道水の入った容器に浸し、10~20mAの直流電流を流す。1回30分の通電を8~12回行うと、発汗が減少する。

電流を通電することにより生じる水素イオンが汗孔部を障害し、狭窄させることにより、発汗を抑制すると考えられている。イオントフォレーシスは、保険適応となっている。

その他、ガイドラインで実施を推奨・考慮してもよいとされている治療法に、A型ボツリヌス毒素の局注・胸腔鏡下胸部交感神経遮断術(ETS)・神経ブロック・レーザー療法・内服療法・精神(心理)療法が挙げられる。

汗腺は、交感神経のみでコントロールされている。一般的に、交感神経の伝達物質はノルアドレナリンだが、汗腺を支配する交感神経の伝達物質はアセチルコリンである。

内服療法では、発汗の原因となる交感神経を抑制するために、抗コリン薬が使用されることが多く、局所多汗症の内服療法として報告数も圧倒的に多い。

本邦で唯一、多汗症に保険適応を有する抗コリン薬はプロバンテイン(商品名:プロ・バンサイン)で、1日45~60mgを3~4回に分服する。

そのほか、実地診療においては、硫酸アトロピンやロートエキスが処方されることも多い。

ロートエキス散は、胃酸過多・胃炎・胃十二指腸潰瘍・痙攣性便秘に適応をもつ抗コリン薬であり、通常、1日20mg~90mgを2~3回に分けて服用する。ロートエキスに含まれている主成分l-ヒヨスチアミン、 アトロピン及びスコポラミンは、体内各部位に分布する ムスカリン様受容体おいて、アセチルコリンと競合的に拮抗する。

効果は30分ほどで現れることから、緊張や不安で汗をかきそうな状況の前に服用することで、過剰な発汗を抑えることが出来ると考えられる。

副作用としては、抗コリン作用による口渇・便秘・排尿障害などが挙げられるが、頓服では問題になるケースは少ない。

抗コリン剤のため、緑内障・前立腺肥大・重篤な心疾患・麻痺性イレウスのある患者には禁忌となっている。

その他の内服薬として、α2受容体刺激薬である塩酸クロニジン(商品名:カタプレス)、発汗に対する恐怖心を抑えるために自律神経失調症に適応をもつトフィソパム(商品名:グランダキシン)、抗コリン作用を有するSSRIのパロキセチン(商品名:パキシル)が有効であるという報告もある。

 今回の患者は、手掌に多汗の症状があり、まず第一選択である塩化アルミニウムの外用療法が行われる。1週間では外用の効果発現が不十分である可能性を考慮し、ロートエキス散の頓服が追加されていると考えられる。

 参考:原発性多汗症診療ガイドライン2015改訂版

 

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