肝性脳症に対するカルニチン処方

肝性脳症に対するカルニチン処方

2015.08.28

患者:      53歳 男性
 消化器科にて肝疾患の治療中。

「最近、知らぬ間に眠っており、家族に声をかけられて気づくことがある、とDrに相談したところ、薬が追加された。サプリメントのようなものと言われたが、本当に 効果があるのか?」とのこと。

処方:      消化器科
リーバクト配合顆粒4.15g 3包              分3 毎食後 35日分
フロセミド錠20mg 1錠
サムスカ錠7.5mg 1錠
スピロノラクトン錠25mg 1錠
フェブリク錠10mg 1錠                         分1 朝食後 35日分
エルカルチンFF錠250mg 6錠              分3 毎食後 35日分

              *今回から、エルカルチンFF錠が追加
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重症肝疾患でみられる意識障害を中心とした多彩な精神神経症状を肝性脳症といい、黄疸・腹水・消化管出血などとともに肝不全の最も特徴的な兆候の1つである。
肝性脳症の発症機序としては諸説あるが、特に肝硬変症例では、肝細胞機能障害によるアンモニア処理能の低下・尿素合成能の低下・門脈大循環シャントの存在に起因する高アンモニア血症が重要である。
高アンモニア血症の誘引として、蛋白の過剰摂取・便秘・消化管出血・利尿薬の過剰投与などが挙げられる。
一般的に、肝性脳症の治療として、低蛋白食・便通対策(ラクツロースなど)・腸管非吸収性抗生物質(カナマイシン・ポリミキシンなど)投与・特殊アミノ酸製剤(アミノレバン・リーバクトなど)投与などが行われている。

 近年、カルニチン製剤の投与により、肝性脳症と高アンモニア血症を改善するとの報告が海外・国内でなされ、実際に処方されるケースもある。
カルニチンはビタミン様物質であり、細胞内で脂肪酸を分解し、エネルギーを産生する際に、脂肪酸をミトコンドリア内部に運搬する役割を担い、尿素サイクルを促進させてアンモニアを分解する働きがある。
カルニチンは体内に約20gあり、その98%は筋肉内に存在する。食物から75%、体内合成(おもに肝臓・腎臓)で25%が供給される。食物では主に肉類や乳製品に含まれる。
肝硬変による肝細胞でのカルニチン合成低下・治療(食事療法)における蛋白制限によるカルニチン摂取量低下により、肝硬変患者ではカルニチン欠乏が惹起される可能性が高い。
このため、肝硬変における高アンモニア血症・肝性脳症の改善にカルニチン投与が有効な症例があると考えられる。

 肝性脳症の既往を有する肝硬変症例7例(全例に前治療として分岐鎖アミノ酸顆粒製剤(リーバクト)あるいは肝不全用経口栄養剤(アミノレバンなど)、ラクツロースが投与されていた)に、カルニチン製剤が投与された国内の報告がある。投与開始30日の時点で、血中アンモニア値は有意に低下し(平均97.6μg/dL)、60日の時点でも低下を維持できた(平均91.4μg/dL)。7例中、高アンモニア血症と倦怠感・意識障害の両方が改善できたのが6例、血中アンモニア値は改善しなかったものの意識障害が改善できたのが1例であった。
また、肝硬変においては、高頻度で筋痙攣を起こすことが知られている。その原因はまだ明らかにされていないが、代謝異常によるATPの減少が考えられている。カルニチンはATPの産生を促す為、筋痙攣の改善に役立つことが示唆される。
8週間のカルニチン投与により、筋痙攣が88.1%の患者で改善、28.6%の患者で消失した、との報告もある。
カルニチンは、肝硬変に伴うQOLの低下を招く種々の症状を改善する可能性がある。
カルニチン製剤(エルカルチンFF錠)の効能・効果は「カルニチン欠乏症」で、添付文書上の用量は1日1.5~3g(分3、適宜増減)である。
カルニチン欠乏症の原因は様々であり、カルニチン製剤の投与量も臨床症状によって幅広い。いまのところ、肝硬変に対しての詳細な用量設定はなされておらず、今後の検討が待たれている。
現在までに、カルニチン製剤による副作用発現頻度は3.07%で、主なものは食欲不振・下痢・軟便などの消化器症状である。重篤な副作用の報告はない。
今回の患者は、気づかないうちに眠っていることがある、という傾眠の訴えから、昏睡度Ⅱ度の肝性脳症と考えられる。すでに分岐鎖アミノ酸製剤であるリーバクト配合顆粒を服用中であったが、肝性脳症の症状が出てきているため、エルカルチンFF錠が追加処方されたようである。
従来から販売されている「エルカルチン錠100mg、300mg」はレボカルニチン塩化物であったが、2014年12月から販売されている「エルカルチンFF錠100mg、250mg」はフリー体のレボカルニチンである。本剤は、レボカルニチン1,500mgでレボカルニチン塩化物(エルカルチン錠)1,800mgに相当する。

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参考資料

・中西裕之 Clinical gastroenterology and hepatorogy,13(8),1540,2015

・玉木克佳 Frontiers in Gastroenterology,17(4),394,2012

 

 

 

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