長引く咳に処方されたPPI

長引く咳に処方されたPPI

2014.05.02

30代 男性
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総合診療科より
ネキシウムカプセル20mg   1C
1日1回 夕食後         14日分
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症状について尋ねたところ
「咳です。風邪薬じゃないんですか?
そういえば先生が胃酸の逆流がどうとか言っていたと思う…」とのこと。

*逆流した胃液が、のどや気管支を刺激したり、
食道の粘膜を通して神経を刺激して咳や喘息が起こることがあると考えられている。
逆流性食道炎の治療を行うと、喘息の症状が改善する患者さんもいる。

<文献報告>
8週間以上持続する慢性の咳で特別な原因疾患が明らかでない場合、咳の原因として
(1)咳喘息、
(2)後鼻漏
(3)胃食道逆流症(GERD)が頻度の高いものと考えられてきた。

 このうちGERDに対しては、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を用いた治療が可能と考えられ、GERDが原因である可能性が高い「むねやけ」などの逆流症状を有する慢性の咳患者に対して、PPIを用いた治療効果の検討が行われてきた。

 このような状況で慢性の咳の原因としてのGERDの関与について、今までの概念を一変させる論文が報告された2)。

この論文の著者らは71例の慢性の咳患者を逆流症状の有無に関わらず対象として、24時間のpH・インピーダンス食道逆流/マイクロフォン咳モニタリングを行い、咳と食道内逆流の数やタイミング、その時間関係の解析を行っている。この研究では、逆流後に咳が出現することが証明された例と、逆流後には咳が出現しないことが証明された例の比較が行われている。

予想に反して、逆流イベント後に咳が出現する例に、逆流回数が多いわけではなく、食道のびらんが多いわけでもなく、逆流症状が強いわけでもなく、食道裂孔ヘルニアが多いわけでもないことが明確に示されている。

さらに、逆流イベント後に咳が出現する患者グループと出現しない患者グループ間で鼻炎等の鼻疾患、喘息、気管支炎等の有病率にも差がなかった。

この研究から明らかとなったことは、現時点でGERDが咳の原因であると考えられる例を見つけようとしても、後鼻漏の存在も咳喘息の存在も逆流が咳を誘発していることを否定できず、反対に逆流症状の存在も食道びらんの存在も、食道内異常酸逆流の存在も、逆流が咳を誘発していることを肯定することができないということである。もちろん、年齢、性別、BMI、咳の持続等の臨床データも参考とはならない。

困ったことに臨床データ、生理学的・形態学的検査データは慢性咳の原因としてGERDが関与しているか否かを判定するためには、あまり有用でないことになる。

従来、PPIの慢性咳に対する有用性の検討は逆流症状を有する慢性咳患者を主な対象として行われてきたが、対象例を間違えていたのかもしれない。

GERDは咳の原因と考えるよりは、咳感受性を高める咳増悪因子と考えるべきであるのかもしれない。

すなわち、胃食道逆流による「咳」の診断上の鑑別を行うことは大変難しく、むしろ原因がはっきりしない「咳」の場合には、どのような例に対しても胃食道逆流に起因する咳感受性亢進の可能性を考えた方がよさそうである。

そこで、原因が明確ではない慢性咳患者には、後鼻漏や咳喘息の精査や加療を行いつつ、PPIを2~3カ月投薬して、その効果を見てみた方がPPIが有効な例を見出せるような気がする。

参考文献

1)Chang, AB., et al. : Gastro-oesophageal reflux treatment for prolonged non-specific cough in children and adults. Cochrane Database Syst. Rev., 1, (2011) : CD004823

2)Smith, JA., et al. : Acoustic cough-reflux associations in chronic cough : potential triggers and mechanisms. Gastroenterology, 139, 754~762(2010)

・パリエットHPより   島根大学医学部 第2内科 教授 木下芳一

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